まずは神Excelを崇めよ、話はそこからだ
BIツールの新規導入やリプレイスをするときに必ずと言っていいほどに出てくるもの。それは現場部門が大事に使っている神Excel。
この神Excelを中心に現場部門とシステム部門、さらにはITベンダーやBIメーカーを巻き込んだ熱き決戦が始まります。今回は神Excelについてスポットを当てて、神Excelとの向き合い方を紹介します。
神Excelとはなにか
まずは神Excelの定義について、ChatGPTさんに聞いてみました。
「神Excel」とは、Excelを高度に使いこなして、複雑なデータ管理や分析を効率的に行うスキルやテクニックを指す言葉です。一般的には、以下のようなポイントが含まれます。
- 高度な関数の活用(例:VLOOKUP、INDEX、MATCHなど)
- マクロやVBAの利用:自動化や複雑な処理をプログラムする
- ピボットテーブルの使い方:データ集計や分析の効率化
- 条件付き書式の活用:見やすいレポート作成
簡単に言うと、Excelの持つ機能をフル活用し、普通の使い方を超えたデータ処理や分析を行うことを「神Excel」と呼びます。
人によっては異なる見解もあるかもしれませんが、私もこの定義に納得していますのでこれで進めます。
あともうひとつ、付け加えるとします。それは世の中には”秘伝の神Excel“という存在があるということです。
秘伝の神Excelとはなにか
代々伝わる秘伝のExcelが現場部門に存在するのです。その大きな特徴が「担当者が代替わりをして、コツコツと強化されてきたExcel」であることです。
各代の担当者は自分の編集した領域はわかりますが、全体的にどのように動いているか把握できていません。そのため、処理が重複していたりムダなことをしているところがあったりします。ですが、直せません。
このように時間をかけて少しずつ少しずつ神と化したExcelが存在します。
「ExcelでできてるものがなんでBIでできないんだ」
何度聞いたことか。ITベンダー時代にもBIメーカー時代にもよく聞きました。親の小言より聞きました。
気持ちはすごくわかります、高いお金をかけてBIツールを導入します。一方のExcelは高いお金を払って作ったものではありません。あっちは高額、こっちは無料、なんでやねんです。
それまでにかかった工数を考えてみましょう
“お金がかかった”というのは、お金を”払う”ことだけではありません。現場の人たちがかけた時間そのものに”お金がかかる”のです。その時間があるから給料が支払われているのです。
秘伝の神Excelには代々の担当者の時間と知恵と汗が含まれています。決してタダでできたものではありません。
まずはこの事実に目を向けましょう。
数百万はかかっているのです、このExcelブックひとつに。
敬意を払った上で、神Excelを取り扱う
さて、歴代の担当者の労力とかかったコストを理解した上で、神ExcelをどうBIツールに置き換えていくかを考えます。
ここではプレイヤーを現場担当者・情シス・ITベンダーの3役に分けます。下記に述べる内容をどなたが担当するかはプロジェクトによって変わるでしょう。ここでは何をしなければならないかを書いていきます。
項目は全部で6つです。どれも大事な項目なのでぜひチェックをしてください。
- 神のトレース
- 神の元データを探せ 〜データ取得〜
- 神の業務を整理する 〜データ加工〜
- 神のままでいいのか 〜可視化の再設計〜
- 神の再定義
- こうして新たな神が誕生する
神のトレース
まずは絶対に必要なことです。神Excelの処理をすべて見直してみます。トリガーはなんでしょう。マクロ実行ボタンがあるのか、ボタンを押す前にどのシートのデータを更新すればいいのか。普段担当者が行なっている手順を見て、そこから神がどのような動きをしているかを追います。
いきなりですが、この処理が最もコストがかかります。そしてプログラムに詳しい人間でもかなり苦労をします。
それは秘伝の神Excelは担当者がバラバラなので、マクロの可読性が悪いからです。Excel数式の順番もひとつずつ追っていかねばなりません。
たまにデータ参照で別のフォルダにある別のExcelブックを参照していることもあります。
ブラックボックス化したシステムの解読になるので、誰も正解がわからない作業です。100点取れてるかわかりません、実は40点くらいかもしれません。でも誰かがやらねばなりません。
ITベンダーに任せる場合は決して「プロだから簡単でしょ?」と思わないでください。素人(複数)の作ったプログラムは何よりも難しいです、ベンダーに任せる場合は多大なコストがかかることをご容赦ください。
神の元データをさがせ〜データ取得〜
神のトレースが一番難易度が高いです。しかしトレースが終われば神は弱体化します。不安があるから神格化するのです。言語化できてしまえば神はただのシステムです。
さて次はデータをペタッと貼るシート、このペタッと貼ってる情報はどこから来るものでしょう。ここが自動化できないか検討します。何かのシステムから出力された情報をペタッと貼ることが多いでしょう。ではそのシステムのデータベースに参照しに行って自動化できないかを検討します。
ここがいかに自動化できるかで、レポート削減工数を大幅に減らすことができます。さらに毎日データを連携することで、そのレポートのデータ鮮度を上げることができ、神を凌駕する機能が搭載されることになります。
なるべく自動化する方向で検討しましょう。
神の業務を整理する〜データ加工〜
ここでは神が元データをどう加工しているかを整理します。”神のトレース”でこの加工処理を順番にしていると思います。
よく見てみましょう。特に秘伝の神Excelの場合、不要な処理や重複した処理があるはずです。それは当然です。長い年月と歴代の担当者がそのExcelを作っています。その人たちは毎回すべての処理を見直している訳ではないです。その場その場で必要と思う処理を追記しているのです。なのでムダやムラが発生しています。なんならバグもあります。
時間を超越してこの処理を見ているのはここの担当をしている人だけです。ここで仕様を再整理しましょう。
神のままでいいのか〜可視化の再設計〜
大変重要な要素です。ゴールとなるExcelの集計表やグラフたち。見たい人は本当にこの形を求めているのでしょうか。時代が変わり業務も変わってます、そしてシステムも進化しています。見たい情報や表現が変わっていることはよくあります。
ぜひ毎回神Excelを見ている人と議論をしてください。今までの神Excelにはないデータを使いたいという要求が出るかも知れませんので、神の元データを探すのと同時くらいに進めるといいでしょう。
神の再定義
ここまででデータ取得・データ加工・データ可視化の整理を行いました。全体を通して業務面とシステム面のそれぞれの目でムリ・ムダがないか再チェックしましょう。
これで設計作業が終了しました。ここから開発やテストに進みましょう。
こうして新たな神が誕生する
新たな神はいかがですか? データ連携や加工が自動化され、現場の見たいダッシュボードとなって、データを見た方々のアクションに影響がでていますでしょうか?
良いシステムであればあるほど、その苦労や存在は忘れがちになります。こうして新たな神が生まれて、神があることが当たり前となり、日々の業務が進みます。
さいごに
今回、私が紹介した神Excelは少々一般の意味合いとズレているかもしれません。今回はExcel帳票をBIにリプレイスするときの難しさを語るという意味で神Excelの紹介をさせていただきました。
そしてお伝えしたいことが”秘伝の神Excel”は存在するということ。私も何度”神のトレース”をしたことでしょう。
関わるみなさんで、まずは神を崇め、どう対策をとっていくかが議論できれば素敵なプロジェクトになるなと思います。