AI時代のDX知識

【第1回】日本のIT構造はどのように形成されてきたのか

Ryosuke Ishii

日本のIT構造はどのように形成されてきたのか

日本とアメリカでエンジニアの所属が異なる理由

日本ではシステムエンジニアの大半がITベンダーに所属し、事業会社の中にエンジニアがいるケースは多くありません。一方アメリカでは、エンジニアの多くが事業会社の内部に存在し、自分たちの業務システムを社内で作り続けてきました。この違いは単なる文化差ではなく、「歴史」と「IT導入のタイミング」によって形成されてきたものです。

本記事の目的

本記事では、日本におけるITベンダー中心の構造がどのように生まれたのか、その背景を歴史から読み解きます。これを理解することで、これからAIが普及したとき、日本の企業構造がどのように変わっていくのかを考える基礎となります。

日本の商習慣がつくった「個別対応」の歴史

江戸時代から続く“取引先に合わせる”という価値観

日本では、江戸時代から「商売」という概念が発展し、商人たちは“お得意様”を大切にし、一社一社に合わせた取引を行うことで信頼を築いてきました。支払条件、納品方法、請求の仕組みなどは取引先によってまったく異なり、それを受け手側が柔軟に対応することで商売が成立していたのです。

標準化よりも個別最適が優先されてきた背景

この長い歴史の中で企業は「取引先に合わせる」ことを強みにしてきました。結果、企業ごとに業務フローやルールが大きく異なり、業務の標準化が進みにくい土壌が生まれました。つまり日本の業務は、ITが登場する以前から高度に複雑化していたのです。

戦後から現代までに積み上がった独自ルールと複雑化

企業ごとに異なる業務フローの固定化

戦後、日本企業は独自のルールを積み重ねながら成長してきました。顧客ごとに仕様が違い、部門ごとに帳票が違い、同じ業務でも会社によって手順が大きく異なる。このような業務の“個別最適化”が、企業文化として定着していきました。

システム導入以前に業務が固まってしまったことの影響

ITが企業に導入され始めた頃には、すでに業務のやり方が固まっており、「業務にITを合わせる」必要がありました。本来であれば、業務をITに寄せて標準化すべきところですが、日本の歴史的な背景によりそれが難しかったのです。

ITツールの登場と“カスタマイズ文化”の誕生

パッケージシステムが企業にハマらなかった理由

パッケージ製品は標準化された業務プロセスを前提に設計されています。しかし日本の企業は既に独自の業務を長年積み上げていたため、そのままではパッケージに業務を合わせることが困難でした。「パッケージを導入する=業務を変える」という選択肢が取りにくかったのです。

ベンダーが“企業側に合わせる”必要が生まれた

こうした状況から、企業はシステムを外部に作ってもらうという構造を選択しました。ITベンダーは企業ごとの業務に合わせてシステムをカスタマイズし、それが日本型システム開発の主流となりました。この文化が長年続いたことで、日本では「ITベンダーがシステムを作る」という構造が強固になったのです。

アメリカはなぜ内製文化が育ったのか

商習慣の歴史が浅く、ITに合わせやすかった

アメリカにおける商習慣の歴史は100年ほどで、日本ほど長くありません。業務が固定化される前にITが登場し、企業がITに業務を合わせることが自然に行われました。つまり、標準化されたプロセスに寄せる文化が早期に定着したのです。

IT導入が早く、業務がIT側に寄った

アメリカではIT化が早く進み、ITツールが業務プロセスを形作る役割を果たしました。結果として、エンジニアが社内に存在し、自分たちでシステムを作る“内製文化”が育つことになりました。

日米比較で見える「決定的な構造差」

日本:個別最適 → 外部依存構造

日本の企業は業務が固まった後にITが入ってきたため、パッケージがハマらず、外部ベンダーのカスタマイズが必要になりました。その積み重ねが、現在の「ITベンダー中心構造」を生みました。

アメリカ:標準化 → 内製文化の定着

アメリカは標準化されたプロセスが早期に広まり、その結果、企業内部でシステムを構築する文化が自然に形成されました。これが現在の「事業会社内エンジニアの多さ」につながっています。

今回のまとめ
日本にITベンダーが多いのは、単なる外注文化ではなく、商習慣の長い歴史とIT導入のタイミングが生んだ必然です。企業は業務を変えるのではなく、システムを業務に合わせる方向を選び、その結果としてITベンダーが不可欠な存在になりました。これを理解することは、AI時代に日本企業がどう変わるべきかを考えるための重要な前提となります。

ABOUT ME
石井 亮介(りょうさん)
石井 亮介(りょうさん)
データパレード 代表取締役
㈱データパレードの代表取締役で高田馬場の町中華のChief Data Officerをしています。 BIツールのセールスエンジニア・システムエンジニア・カスタマーサクセス歴15年、大学データサイエンス科 講師をしています。データエンジニア領域とコンサルティングが得意です。
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