【第6回】内製化は「小さなシステム」から始まる― 非エンジニアが“考える側”に回るタイミング ―
内製化=大規模システム、という誤解
「内製化」という言葉を聞くと、基幹システムや全社規模の大きな仕組みを思い浮かべる人は多い。会計や販売管理、インフラのような、失敗が許されない領域を自分たちで作る、というイメージだ。
ただ、今起きている内製化の動きは、そこから少し距離がある。少なくとも、最初の一歩はその場所ではない。
実際に内製化が始まっている場所
内製化が静かに進み始めているのは、もっと身近な業務だ。
Excelで管理してきた表。CSVを加工して確認しているデータ。毎回、人の手で行っている集計やチェック。部門の中だけで完結している小さな業務フロー。
これまでは「システム化するほどでもない」と見なされてきた領域でもある。ただ、現場から見れば、確実に手間がかかり、ミスも起きやすい。
投資額で言えば、数百万円から多くても数千万円に届かない範囲。全社を巻き込む必要はなく、部門単位で判断できるサイズ感だ。内製化は、まずこのあたりから始まっている。
なぜ今、この動きが起きているのか
理由はいくつか重なっている。
クラウドやSaaSが普及し、環境を一から用意する必要がなくなった。ツール自体も、以前よりずっと扱いやすくなった。
そして、決定的なのがAIの存在だ。
コードを書く量が減り、実装の多くが設計や指示の延長として行えるようになってきた。結果として、「手を動かす専門性」よりも、「何を作るかを考える力」の比重が高まっている。
非エンジニアが「考える側」に立つ

ここで誤解してほしくないのは、非エンジニアがプログラマーになる、という話ではないことだ。エンジニアの仕事を肩代わりする、という話でもない。
変わるのは立ち位置だ。
何を解決したいのか。どこまでできれば十分なのか。どこは割り切って捨てるのか。失敗したとき、どこまで許容できるのか。
こうした判断は、本来その業務を知っている人にしかできない。これまでは、それを言葉にして伝えること自体が大きな負担だった。AIの登場によって、「考えを言葉にする」ことのハードルが一気に下がった。
小さな内製化が生む変化
部門単位の小さな内製化には、いくつか共通した特徴がある。
- スピードが早い
- 修正がしやすい
- 現場の納得感が高い
完璧なシステムを目指す必要はない。まず動かし、使いながら直していく。
このプロセスの中で、非エンジニアは自然と「要件を考える」立場になる。何が必要で、何が不要か。どこまで作り、どこで止めるのか。第5回で触れた「抽象論を言語化する力」が、ここで実際の業務と結びつき始める。
ITベンダーの役割は消えるのか
この流れを見て、「ITベンダーの仕事がなくなるのでは」と感じる人もいるかもしれない。ただ、現実はそう単純ではない。
判断が重い領域。全社への影響が大きいシステム。高い信頼性や継続性が求められる部分。こうした領域では、これからも専門性が必要になる。
変わるのは、「すべてを任せる」という関係性だ。小さな内製化が進むことで、ITベンダーは実装要員ではなく、より高度なパートナーへと役割を移していく。
内製化は技術の話ではない
内製化が進むかどうかは、技術力の問題ではない。本質は、考えることを自分たちで引き受けるかどうかだ。
小さな内製化は、その覚悟を試す場でもある。うまくいけば自信になる。失敗すれば、次に活かせる学びが残る。その積み重ねが、次の一歩につながっていく。
次に見えてくるもの
この流れが進むと、次に問われるのは役割の再定義だ。誰が考え、誰が作り、誰が支えるのか。
次回は、内製化の先に見えてくる非エンジニアとITベンダーの新しい関係性について、もう一段踏み込んで整理していく。

