【第8回】「考える力」を組織に残すという課題
なぜDXは属人化しやすいのか
DXがうまく進んでいるように見える組織でも、少し時間が経つと止まってしまうことがある。その理由を掘り下げていくと、多くの場合「特定の人に依存している」構造に行き着く。
あの人がいないと話が進まない。
あの人が忙しいと判断が止まる。
あの人が異動すると、なぜか全部リセットされる。
こうした状態は、決して珍しいものではない。むしろ、DXに真面目に取り組んでいる組織ほど、起きやすい現象でもある。
最初はスピード感もあり、成果も見えやすい。ただ、その裏側で「考えること」が特定の人に集まり始めると、少しずつ歪みが生まれていく。
AIがあっても属人化は解消されない
AIの登場によって、一人ひとりができることは確実に増えた。資料作成も、設計の下書きも、以前よりずっと速く形になる。
ただ、それでも属人化は自然には解消されない。
なぜなら、AIが強くするのは「個人」だからだ。考える力を持つ人が一人いれば、その人はさらに速く、さらに深く考えられるようになる。しかし、その思考が組織に残るとは限らない。
むしろ、AIによって一人で完結できる範囲が広がるほど、考えが共有されにくくなるケースもある。
結果として、AI時代になっても「できる人が一人いる状態」が続いてしまう。
組織に残すべきなのは「正解」ではない

ここでよくある誤解がある。考える力を組織に残すというと、「正解を共有すること」だと思われがちだ。
しかし、正解そのものは状況が変わればすぐに陳腐化する。業務も、技術も、前提条件も常に動いている。
本当に残すべきなのは、結論ではなく、その結論に至るまでの考え方だ。
何を前提に考えたのか。
どこで迷ったのか。
なぜその判断を選んだのか。
こうした思考の過程が共有されていなければ、次に考える人は毎回ゼロから始めることになる。
こうした思考のプロセスこそが、次に考える人の足場になる。
考える力が「流れる」組織の特徴
考える力が属人化しない組織には、いくつか共通点がある。
一つは、壁打ちが日常的に行われていること。考えを一人で抱え込まず、途中の状態でも言葉にして共有する。
もう一つは、判断のログが残っていること。決定事項だけでなく、なぜそう決めたのかが記録されている。
そしてもう一つは、「教える」よりも「一緒に考える」時間が確保されていることだ。
完成した資料よりも、考えている途中の会話が価値を持つ。そうした空気があるかどうかで、組織の学習速度は大きく変わる。
これらは特別な仕組みではない。小さな習慣の積み重ねで十分に実現できる。
個人の成長を組織の力に変えるために
非エンジニアが考える側に立ち始めた今、次の課題は明確だ。その力を個人で終わらせず、組織に残すこと。
AIは思考を加速させるが、組織を設計するわけではない。どのように考え、どのように共有し、どのように次へ渡すか。その部分は人が意識して作る必要がある。
考える人が増えるだけでは足りない。考えが循環する構造があって、はじめて組織の力になる。
次回は、こうした「考える力」をどう育て、どう広げていくのか。教育や育成の視点から、もう一段踏み込んで考えていく。

