BIツールのその先へ──AIとともに進むデータ活用の新しい地図

導入:BIツールだけでは終われない時代が来た
最近、「AIでデータ分析ができるようになってきた」という話をよく耳にする。実際、自分でもこの本を読んでみた。
この本では、ChatGPTとPythonを使って、マーケティングや売上分析をどう自動化できるかが具体的に紹介されていて、読みながら「これ、自分でもできるかもしれないな」と感じた。
特に印象的だったのは、1ステップずつChatGPTに指示を出していけば、ちゃんとPythonコードが書けて動くということ。ライブラリのインストールからグラフ化まで、「このデータを読み込んで」「この項目を抽出して」「グラフにして」など、会話を通して進めるスタイルで分析ができる。
いまのChatGPTは、まだ複雑な“複合指示”には少しズレが出ることもあるが、一行ずつ正確に処理させる力は、すでに実用レベルに達している。いずれはもっとアバウトな指示でも自分の望む結果を返してくれるようになるだろう。
つまり、AIを使って「分析の設計さえできれば、あとは任せられる」世界が、もう目の前まで来ている。
これは、ただの「ツールが便利になった」という話ではない。BIツールとはまったく別の思考法とリテラシーが求められるフェーズに入った、ということだ。
リテラシー構造を整理する:データ活用の3層モデル

AIやPythonが話題になる中で、今あらためて整理しておきたいのが、「データ活用の現場にいる人たちの“立ち位置”」だ。
この業界には、ざっくり分けて3つの層が存在している。
レイヤー3:本格的なデータサイエンティスト(専門職・プロフェッショナル層)
- PythonやRを自在に使いこなし、統計・機械学習・API連携など、あらゆる分析が可能
- 自分の頭で分析ロジックを組み立て、ゼロから設計・実装まで行える
- 企業に雇われているデータ分析の専門職であり、データ活用の“職人”ポジション
レイヤー2:BIツールを高度に使いこなす人(現場の分析エース層)
- Dr.SumやTableau、PowerBIなどで柔軟な集計や可視化ができる
- データベースやSQLの基礎知識を持ち、複雑なロジックにも対応可能
- 「分析脳」を持ち、BIツールを駆使して業務課題を“見える化”する能力が高い
レイヤー1:BIツールの出力を見るだけの人(レポート利用層)
- 自分では分析は行わないが、レポートやダッシュボードの“読み手”として参加
- データの意味を理解し、現場の意思決定に活かす役割を担う
この構造には、格差のニュアンスは一切ない。必要とされるスキルや立ち位置が違うだけで、どの層もデータ活用にとって不可欠な存在だ。
そして今、注目すべきなのは──
AI × データ分析が「レイヤー2」の人を“もう一段”引き上げる
ChatGPTのようなAIを使うことで、
- 「BIツールでできることの限界」を越えて
- 「データを自分の力で加工し、より高度な分析ができる」ようになる
つまり、レイヤー2にいる人が、レイヤー3の“思考の世界”に踏み出せるという話だ。
これは、Pythonをイチから学ばなくても、「AIに指示できる力」があれば、“プロに近づく入り口”が開けることを意味している。
AI × データ分析が可能にする“ジャンプ”:分析脳へのショートカット
BIツールを使いこなせる人たちは、すでに「どのフィルターをかけて、どう見せるか」といった分析の思考を持っている。その“思考”を動かす手段としてBIツールを使ってきたわけだ。
ただし、BIツールにも限界がある。
- ビジュアル表現の自由度
- 複数データソースの突合せ
- 時系列予測や自然言語処理などのアルゴリズム適用
こういった領域に対して、PythonとAIの組み合わせは非常に柔軟で強力だ。
たとえば、いずれはChatGPTに「このデータで曜日別の傾向を可視化したい」「商品AとBの売上傾向を比較したい」と伝えると、それに合ったコードを提案してくれるようになる。そしてうまく動かないときは「うまく動かない」と伝えるだけで修正までしてくれる。
つまり、考える力があれば、ツール操作のスキルが完璧じゃなくても“動かせる分析”に辿り着けるということだ。(もちろんその分析が正しいかを証明できる”脳”が自分の中になければならないが)
本格的なデータサイエンティストが持っているのは、単に技術力ではない。「業務の構造を理解し、それを再構築できる力」と「それをデータで仕組み化する設計力」だ。
この“分析脳”とは、もっと分解すれば以下の3つの力の掛け算になっている
- 業務インサイト力
- 仕組み化・設計力
- 言語化・伝達力
そしていま、それを“全部ひとりでやらなくてもいい”時代がやってきた。AIに伝えられれば、手となり頭となって動いてくれる。
これは“格差”じゃなく“住み分け”:ツールより“関わり方”の時代へ
「じゃあAIを使えないと置いていかれるのか?」「Pythonを勉強しないとダメなのか?」と焦る必要はまったくない。
AIを使うことが正解でもないし、BIツールを使うことが劣ってるわけでもない。
それぞれのツールやスタイルには、それぞれの「向いている使い方」がある。これは技術の話ではなく、“関わり方”の話だ。
BIツールを使う人は「広く届ける力」を持っている
- 現場が見やすく使いやすいダッシュボードを構築できる
- 定型レポートや日常の意思決定に組み込むことができる
これは、組織にデータ文化を浸透させるための重要な役割だ。
AI × データ分析を使う人は「柔軟で深い分析」ができる
- より個別最適に近い分析が可能
- BIツールの枠を超えた処理やアルゴリズム活用ができる
つまり、“どちらが上か”ではなく、“何を目指すか”で選ぶものが変わるということだ。
まとめ:AI時代、データ活用は“設計力”の勝負に
AIが進化して、誰でもデータ分析ができるようになる──そんな未来が少しずつ現実になってきた。
でも、忘れてはならないのは、「AIが書いてくれる」のはあくまで手段であり、本当に価値を生むのは、「その手に何をやらせるかを考える力」だ。
大事なのは「設計できること」
- どんな問いを立てるのか?
- どのデータが使えるのか?
- どういうステップで処理すれば答えが出るのか?
- それをどう伝えれば、AIが理解して動けるのか?
この“設計力”のベースになるのが、下記で紹介している、思考を言語化し、分解し、順序立てて伝える力だ。

AIは「考えるパートナー」

使い方が正しくなければ、てんで的外れなことを言ってしまう。でも、ちゃんと意図を伝えて、会話しながら考えれば、とんでもなく強力な“思考パートナー”となり、優秀なプログラマーとなる。
あなたはどこから、どこへ行く?
どこから始めてもいい。大事なのは、自分の“関わり方”を一歩広げてみること。
AIという相棒とともに、データ活用の可能性はもっと広がっていく。