2人のバイブコーディングが生んだ旅行アプリ── 設計書で統合する、AI時代の新しいチーム開発
きっかけ
当社でアルバイトをしていたメンバーがいる。プログラミングの経験はない。ただ、日常的にAIを使ってアイデアを形にしていて、それがもう普通の習慣になっていた。
彼女はAIをメインに、ITツールを補助に業務をする。「Tableau」を活用した際も以下のような取り組みをした。
ある日、海外でのグループ旅行に向けて「外貨レートも含めた精算ツールが欲しい」と思い立ち、AIを相棒に開発を始めた。既存の割り勘アプリでは外貨の計算や旅程共有に対応しきれない。だったら自分で作る。そういう発想だった。
結果として、約2週間で実用レベルのWebアプリを仕上げている。開発費はサブスクリプション費用の2,900円だけだった。
私はシステムエンジニア出身で、このアプリに対して機能面の設計をサポートする立場で関わった。開発の主体は彼女だ。ただ、振り返ると、2人がそれぞれAIとバイブコーディングし、設計書を共有して統合するという、ちょっと面白いチーム開発のかたちが生まれていた。

彼女の開発スタイル
彼女のやり方は明確だった。自分を”CEO”、AIを”CTO”と定義している。要件定義と最終判断は自分。実装はAI。この線引きを崩さない。
指示を出す前に、まず全ファイルをAIに読み込ませてシステム全体を把握させる。その上で、何を作りたいのかを論理的に分解して伝える。AIの出力品質は課題の解像度に依存するということを、彼女は開発を通じて体感的に掴んでいた。
技術選定も面白かった。非エンジニアだから、ゼロから最適な構成を自分で決めるのではなく、「短期間で回しやすく、コストをかけない」という条件でAIに複数案を出させる。そのうえで、学習コストや保守性を自分でも調べて、必要なら再提案を求める。任せるところは任せて、判断は自分が握る。”丸投げ”とは全然違う。
AIとのズレから学んだこと
ただ、うまくいかないこともあった。
画面スクロール時にボタンが隠れてしまう問題で、AIは「スクロール自体をオフにする」という解決策を返してきた。「固定してほしい」という指示が抽象的すぎた。AIは言葉の通りに解釈するので、こちらが実装レベルまで具体化しないとズレる。
カレンダーUIでも同じことが起きた。AIは全期間を選択できる広範なカレンダーを作った。でも旅行中に片手で急いで入力する場面では、選択肢が多すぎると使いにくい。AIは”できることの多さ”を最適解として返すが、現場で求められるのは”迷わず使えること”だった。
この判断は、AIだけでは出てこない。使う場面が見えている人間にしかできない部分だと感じた。
私の関わり方
私の役割は、機能面の設計サポートだった。
SE出身なので、「どういう機能が要るか」を洗い出して設計書にまとめることは得意だ。必要になりそうな機能を想像して調べて、エンジニアベースで設計書としてまとめてからAIに渡す。そうするとAIの出力はバグが少なく、機能として抜け漏れのない作りになる。
コードを書く力とは少し違う。”何を作るか”を設計レベルで明確にする力だ。AIが実装を担う時代には、ここの価値が改めて大きくなっていると感じた。
設計書で統合するという開発のかたち
振り返ると、このプロジェクトは少し変わった構造になっていた。
彼女がUI/UXの視点からAIと実装を進め、私が機能設計をまとめて共有する。2人の間をつないだのは、コードではなく設計書だった。コードレビューの代わりに設計書のレビュー。プルリクエストの代わりに要件のすり合わせ。
従来のチーム開発とは全く違う流れだ。でも、バイブコーディングが前提になると、むしろこっちのほうが自然だと感じた。
できあがったもの

ログイン不要でURL共有だけで使える設計。リアルタイムの外貨換算。持ち物の準備状況の可視化。Excel/JSONでのエクスポート。彼女のUI/UX感覚と、私の設計面でのサポートが噛み合った結果だと思う。
数字で見る開発
開発期間: 約2週間(着想からプロトタイプまで約3時間)
総作業時間: 約130時間
AIとの対話: 約450ターン以上
開発費: 2,900円
実地テスト: 海外旅行で実際に使用。フィードバックを即日反映
思ったこと
今回の開発を通じて、バイブコーディング時代のチーム開発は、コードではなくドキュメントでつながるんじゃないかと感じた。
従来は、同じコードベースに複数のエンジニアがコミットして、プルリクエストで合流するのが普通だった。でもAIが実装を担う前提なら、それぞれが自分の強みでAIと開発し、要件定義書や設計書で統合するほうが回る場面がある。
AIに指示を渡すために「考える」のは、人間の仕事。
彼女が開発を振り返って書いた一文だ。プログラミング未経験の人がここに至っているのは、素直にすごいと思った。そしてエンジニア出身の自分も、結局は同じことを感じている。
異なる強みを持つ人間が、それぞれAIを右腕にして並行開発し、設計書で統合する。こういうやり方が、これから少しずつ広がっていくんじゃないかと思っている。

