AI/DX活用

会計と販売管理は、普通は同じ画面に載らない ― 1人社長がSFAと経営ダッシュボードを自分で作るまで

会計と販売管理は、普通は同じ画面に載らない
Ryosuke Ishii

会社の数字を扱う仕組みは、たいてい二つに分かれています。会計は月に一度の締めで確定するもの、販売や商談は毎日動くもの。この二つを一つの画面に並べようとすると、多くの場合どこかで無理が出ます。締める前の会計は当てにできませんし、鮮度の違うものを並べれば、どちらかに合わせて古くなるからです。

弊社は社員がおらず、案件のステータスを更新するのは私ひとり、数字を取りに来るのはAIで毎朝動きます。この条件だと、会計も商談も販売管理も常に最新のまま並びます。そこを前提に、経営ダッシュボードを自分で作りました。その経緯と、作りながら決めたことを書きます。

実際に作った手順やつまずいた点は、体験談として別にまとめています 👉 1人社長が仕組みを作ってたら、気付いたらSFAと経営ダッシュボードができていた話

できあがったものを先に置きます。会計の実績と商談の見通しを同じ画面に載せて、毎朝6時に自動で作り直しています。

操作の様子(棒・取引先・月を押すと、その場で明細が開きます)

なお、この記事に載せている画面の数字と取引先名は、形はそのままに差し替えたダミーです。

始まりは、販売管理システムの解約でした

見積・請求・案件を管理する販売管理システムを使っていましたが、解約を決めました。理由は二つあります。

一つは、AI経由で読み書きできる作りになっていなかったことです。弊社は日々の作業の多くをAIに任せているため、AIから触れないツールは業務の外側に取り残されます。もう一つは、書類の発行が会計ソフト側だけで足りるとわかったことです。

解約の判断そのものは迷いませんでした。困ったのはその後です。会計は確定した数字しか持っていません。見積を出しただけの案件、注文書を待っている案件、契約はしたけれど請求はこれからの案件。それらの居場所が、見積のPDFと過去のやりとりと自分の頭の中だけになりました。

そこで案件台帳に受注見込額・確度・受注予定日という項目を足して、そこを唯一の置き場と決めました。足した項目は三つだけです。ですがこれで、案件がいまどの段階にあるかを一覧で見られるようになりました。

営業支援の仕組みを導入しようと考えて作ったのではなく、無くなった機能を埋めていったら、結果として営業支援の仕組みになっていたという順番でした。

解約したら、確定していない案件の置き場が消えた
解約したら、確定していない案件の置き場が消えた

「管理したい」から始めると、たいてい続きません

「案件を管理したい」から始めた仕組みは、入力が面倒になった時点で使われなくなります。一方で「この数字を出したい、そのためにこの項目が要る」という順番で作ると、入力をやめると欲しい数字が出なくなるので、自然に続きます。目的が先で、管理はその副産物という並びです。

ここ数か月で商談の数が増えてきたことも後押しになりました。案件が並んでいるだけでは「今期どこに着地するのか」が出てきません。段階ごとに係数を掛けて積み上げる形にして、はじめて見通しになりました。

確度の刻み方は、粗いほうが使われました

確度の係数は、最初は弱気・標準・強気の3段階に分け、画面で切り替えられるようにしていました。結果として、一度も切り替えませんでした。知りたいのは幅ではなく、判断に使える一本の見通しだったからです。

いまは段階を1本に絞っています。契約が成立していれば1.0、内示は0.9、見積を出した段階で0.7、そこから0.5・0.3・0.15と下げていきます。注文書が届いているかどうかは条件にしていません。契約が成立していれば売上は立つからです。

設計として一番気を遣ったのは、同じ売上を二度数えないことでした。請求済みや入金済みの案件は、会計側の売上実績にすでに入っています。これを商談としても足すと、着地が実態より大きく出ます。当たり前のようですが、会計と商談を一つの画面に載せた瞬間に発生する問題で、境目に但し書きが必要になりました。

継続的に作業が続く案件も同じです。毎月報告が上がってくるような取引を1件の商談として持つと、金額をどこに置くか決まりません。注文をもらうたびに子案件を作り、金額は子だけに入れて、親は取引の器として扱うことにしました。

段階ごとに重みを付けて積む。ただし2つは足さない
段階ごとに重みを付けて積む。ただし2つは足さない

売上の着地が出ると、次は利益が見たくなります

商談を積み上げて、売上の着地は出ました。ただ、本当に見たかったのはそこではありませんでした。その売上で、最終的にいくら残るのかです。

売上が伸びても、外注費が同じだけ乗れば手元には残りません。固定費もかかります。そこで同じ画面に会計を載せ、売上から費目を順に引いて営業利益・経常利益まで一本で追えるようにしました。

商談のダッシュボードを作っていたつもりが、利益を確かめたくなった時点で、経営のダッシュボードに変わっていました。

着地は「確定した数字」+「これから入る数字」
着地は「確定した数字」+「これから入る数字」
実際の画面。売上から費目を順に引いて、営業利益と経常利益まで一本で見る(数字はダミー)
実際の画面。売上から費目を順に引いて、営業利益と経常利益まで一本で見る(数字はダミー)

なぜ普通は同じ画面に載らないのか

冒頭に書いたとおり、会計と販売管理は本来ひとつの画面に並びません。理由は鮮度です。

会計は月次で締めて確定する前提の仕組みです。締める前の残高は仮のもので、経費の計上漏れも仕訳の付け替えもこれからあります。一方、商談のステータスは相手の返事ひとつで今日変わります。片方が月に一度しか信用できず、もう片方が毎日動くなら、並べたときに古いほうへ引きずられます。

多くの会社では、ここに人数の問題も重なります。案件のステータスを更新するのは営業担当、会計を締めるのは経理担当で、両者の更新のタイミングは揃いません。揃えようとすると運用のルールが増え、そのルールを守る手間が新しい仕事になります。

弊社の条件は違いました。ステータスを更新するのは私ひとりですし、数字を取りに来るのはAIで、毎朝決まった時刻に動きます。更新する人が一人で、集計が自動なら、鮮度のずれはそもそも発生しません。会計も商談も販売管理も、常に最新のまま同じ画面に並びます。

これは規模が小さいから妥協した、という話ではないと考えています。人数が少ないことと、日々の集計をAIに任せられることが重なると、大きな組織では成り立たない見せ方が成り立ちます。

会計と販売管理が同じ画面に載らないのは、鮮度が違うから
会計と販売管理が同じ画面に載らないのは、鮮度が違うから

「見づらい」は感想ではなく、設計の指摘です

一通り動くようになってから画面を開き直したところ、カードが同じ大きさで整然と並んでいて、どこから見ればいいのか分かりませんでした。作った本人が分からないのですから、これは好みの問題ではありません。

ウイングアーク1stのCustomer Success Academyに、ダッシュボードのデザインについての解説があります(MotionBoard デザイン)。画面が分かりづらいと言われる原因を「なんの情報か分からない」「なにを判断すればいいか分からない」という二つに整理し、大きさや色の変化は気付きを促したい場面だけに使う、という考え方が示されています。

これを読んで、画面を作り直しました。変えたのは次の3点です。

  1. 最初に読む一文を、いちばん上に文章で置いた。「今期は前期をどれだけ上回る見込みで、残りは定期請求と進行中の案件で届く」という要約を、グラフより先に読めるようにしました。
  2. 面積に差を付けた。均等配置をやめ、見せたい数字を大きく、その根拠となる表を小さくしました。面積の差がそのまま視線の順番になります。
  3. 色を減らした。前期実績を越えているか、明細が止まっていないか。判断に使う色だけを残して、それ以外は薄いグレーに寄せました。

分かりやすさは、情報を減らすことでも装飾を増やすことでもなく、見る順番を設計することだったのだと思います。

できあがったもの

HTMLファイル1枚です。外部のライブラリは使っていません。会計ソフトと案件台帳からデータを取ってきて、毎朝6時に自動で更新します。

毎朝6時に、画面ごと作り直す
毎朝6時に、画面ごと作り直す
経営サマリ。前々期・前期・今期着地・来期積み上げを1枚に並べ、破線の前期実績を越えられるかを見る(数字はダミー)
経営サマリ。前々期・前期・今期着地・来期積み上げを1枚に並べ、破線の前期実績を越えられるかを見る(数字はダミー)

画面は4つに分かれています。経営サマリ、営業の見通し、会計、データの状態。棒グラフの棒や、取引先の名前や、月のラベルを押すと、その場で明細が開きます。合計だけを見て違和感を持ったときに、その場で中身まで降りられる状態にしておきたかったからです。

数字は税抜で出しています。会計ソフトは税込で経理をしているので、表示を切り替えるときに1.1で割りたくなりますが、それをすると合いません。法定福利費や租税公課は非課税ですし、立て替えた交通費も非課税だからです。取引ごとの消費税の実額を科目別・月別・取引先別に集計して差し引いています。手間はかかりますが、この方法だと取引先別の合計が売上高と1円まで一致します。

まとめ

  • 「管理のための仕組み」ではなく「この数字を出すために必要な項目」から作ると、入力が続きます。
  • 会計と商談を一つの画面に載せるときは、同じ売上を二度数えていないかを必ず設計に織り込みます。
  • 更新する人が一人で、集計が自動なら、鮮度のずれは発生しません。普通は並ばない二つが同じ画面に載る条件はここにあります。

社員がいない会社なので、ここで作ったものは全部自分のためのものです。ただ、会計ソフトも案件管理ツールもそれぞれ優秀なのに、その二つを足した先の問いには誰も答えてくれない、という状況は、規模が違っても起きているのではないかと思っています。

御社では、「今期はどこに着地するのか」は、どの画面を開けば出てきますか。

データも人もAIも、つながるから、先がある。

実際に作った手順やつまずいた点は、体験談として別にまとめています 👉 1人社長が仕組みを作ってたら、気付いたらSFAと経営ダッシュボードができていた話

ABOUT ME
石井 亮介(りょうさん)
石井 亮介(りょうさん)
データパレード 代表取締役
㈱データパレードの代表取締役で、高田馬場の町中華「一番飯店」のChief Data Officerも務めています。BIツールのセールスエンジニア・システムエンジニア・カスタマーサクセス歴15年。大学のデータサイエンス教育で講師も担当してきました。現在は自社業務のほとんどをAIに移管し、AI10部署と50を超える自動処理が24時間動く「AI経営」を実践中。その実践知をこのブログで発信しています。
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