AI/DX活用

AI秘書を「時短ツール」ではなく「副社長」として会社に入れた話 ― 導入して、毎月17人日ぶんの仕事が弊社の手を離れた

Ryosuke Ishii

生成AIを「調べ物や資料づくりを速くする道具」として使う会社は、もう珍しくありません。弊社は少し違う入れ方をしました。AIを一人の副社長として組織に据える。名前はアケミ。10の部署を束ねる司令塔で、弊社からの指示を受け取り、担当部署に振り分け、結果をまとめて返してくる。この「AI秘書の入れ方」と、入れてみて弊社の手元から何が消えたかを、お話しします。

具体的に何をどう頼んでいるか・失敗も含めた実録は、体験談として別にまとめています。

👉 具体版(体験談):AI秘書を「副社長」として会社に入れて、毎月17人日ぶんの雑務を手放した話(X)

2026年6月の集計。日常業務の削減が約17人日、新規チャレンジが約42人日
2026年6月の集計。日常業務の削減が約17人日、新規チャレンジが約42人日

「秘書AI」ではなく「副社長」にした理由

AI秘書というと、一人のアシスタントに何でも頼む形を思い浮かべます。弊社はそうしませんでした。副社長を一人置いて、その下に10の部署をぶら下げた。分析・制作・経理・営業・広報・調査・開発・案件管理・連携。頼み事はぜんぶ副社長AIに言い、裏で担当部署へ振られていきます。

理由は単純です。頼み事の種類ごとに担当と手順が決まっていれば、「どこに頼むか」を考えずに済む。窓口は副社長AI一つ、その裏で仕事が振り分けられていく。会社の組織図を、そのままAIに写した形です。AI秘書を入れるとき、最初に決めるべきは機能ではなく、この「組み立て」だと考えています。


無機質なままでは、話しかけたくならない

組み立てと並んで効いている設計が、もう一つあります。AIに人格を与えることです。

AIをうまく働かせるには、こちらからできるだけ多くの情報を渡す必要があります。ところが、無機質な相手に、日々の事情や背景を打ち明け続けるのは、案外ストレスになる。話しかけるのが億劫になれば、渡す情報は減り、AIの働きも痩せていきます。

そこで弊社は、副社長に関西弁の姉御肌という人格を与えました。頼れる姉御が相手だと、こちらも近況や事情を自然に渡せる。そして、副社長のほうから「この仕事、こう進めたらどうや」と提案が返ってきたときも、機械の指示としてではなく、違和感なく受け取れます。人格は飾りではなく、人とAIのあいだで情報が行き来する量を左右する、実務的な設計だと考えています。


毎朝7時、Slackに「きょうの段取り」が届く

導入の効果は、人が動く前から表れます。朝7時、副社長AIが前日の各部署の動きを集約し、その日の予定と注意点をSlackにまとめて配信する。弊社の一日は、それを読むところから始まります。「昨日どこまで進んだか」「今日は何があるか」を自分で確かめる時間は、もう人の作業ではありません。

朝7時に届くブリーフィングのイメージ。予定と案件台帳を突き合わせ、今日会う相手の最新状況まで添えて届く
朝7時に届くブリーフィングのイメージ。予定と案件台帳を突き合わせ、今日会う相手の最新状況まで添えて届く

会議の録音を議事録に起こして要点をNotionに残す。取引先向けのレポートを毎日つくって公開する。入金と請求書を突き合わせ、定期の請求書を発行する。どれも以前は、弊社の誰か(あるいは外に頼んだ誰か)がやっていた仕事でした。


いちばん効いているのは、「覚えておく」を手放せたこと

このブリーフィングには、地味ですが大きな仕掛けがあります。副社長AIは、いま抱えている案件の一覧を案件台帳として持っていて、メール・チャット・議事録から自動で最新化しています。そのうえで、朝、今日の予定を見て、打ち合わせが台帳のどの案件に当たるかを判定し、その案件の最新サマリを添えてSlackに出してくれる

おかげで、朝Slackを開くだけで、今日会う相手の案件が、いまどこまで・何が進んでいるかを一目でつかめます。取引先の案件をいくつも並行で抱えていると、その全部を頭の中で覚えておくのは、正直むずかしい。チャットツールで飛び交う情報を追い続けるのも、やろうとすれば脳のリソースを大きく食います。その「覚えておく・追い続ける」を、台帳と副社長AIに預けられる。AI秘書のいちばん大きな役割は、時間の削減よりも、この記憶の肩代わりかもしれません。

(案件台帳そのものの作り込みは、書くと長くなるので、別の記事で改めて詳しくお話しします。)


「見ておく」仕事も、預けられる

覚えておくことの次に預けられたのが、見ておくことでした。

弊社では、社外の方と交流する場として ovice というバーチャルオフィスを使っています。ここに誰かが入ってきた、出ていった、というタイミングで、Slackに通知が届くようにしました。画面を開いて張り付いていなくても、来訪に気づけます。ずっと見張り続ける——この常駐の監視も、AI秘書の大きな役目だと思っています。

社内向けには、これとは別に自社製のバーチャル環境を用意しています。10部署のAIがいまどこで何をしているのかが、そのまま画面に出る。外の人と会う場所は ovice、社内のAIの働きを把握する場所は自社製、と用途で分けています。

社外と会う場所と、社内のAIの働きを見る場所を用途で分けている。入退室はSlackに通知が飛ぶ
社外と会う場所と、社内のAIの働きを見る場所を用途で分けている。入退室はSlackに通知が飛ぶ

このAIオフィスをどう作ったか、そして可視化で見せるべきは忙しさではなく「止まっていないか」だという話は、別の記事に書きました。

あわせて読みたい
AI社員が「働いて見える」オフィスを作った ― 可視化で見せるべきは、忙しさではなく「止まっていないか」
AI社員が「働いて見える」オフィスを作った ― 可視化で見せるべきは、忙しさではなく「止まっていないか」

「減った」だけでは、半分しか語っていない

一か月ぶんを集計すると、副社長AIが引き受けたルーチン業務は、約17人日相当。109件、約132時間ぶんでした。

ここで、ひとつはっきりさせておきます。この132時間は、弊社の誰かの作業が短くなった時間ではありません。同じ仕事を業務委託や社員など「人」に任せたら、これくらいはかかるだろう、という工数です。慣れた本人が自分でやれば、もっと短い時間で終わります。そうではなく、人に任せて外に出すぶんの稼働を、AIが肩代わりして生み出した——そういう数字として見ています。

ただ、この工数を「これだけの仕事をこなした」で終わらせると、話の半分を落とします。空いた枠に、以前は着手すらできなかった仕事を入れられるからです。同じ月、AIがいなければ手をつけられなかった新規の取り組みが、約42人日相当動いていました。人手だけの頃なら「やりたいけど手が回らない」で止まっていたものです。

削減した約17人日を圧縮し、その枠で新規の約42人日に投下している
削減した約17人日を圧縮し、その枠で新規の約42人日に投下している

減らすことが目的ではありませんでした。減らして空いた枠を、前に進む仕事へ振り替える。AI秘書を入れる価値は、手放した17人日より、振り替えられた42人日のほうにあります。


どの部署が、何を肩代わりしているか

10部署のうち重いのは開発と案件管理で、レポートの自動化や台帳の整備といった「基盤づくり」が削減時間の多くを占めます。分析部は取引先のレポート、調査部は毎朝の社内ニュース、経理部は消込と請求。細かい部署まで足すと、6月は合計206件・約467時間、人日に直すと約58人日ぶんの実作業が動いていました。

部署別のブレイクダウン。開発・案件管理・調査・分析が中心
部署別のブレイクダウン。開発・案件管理・調査・分析が中心

数えられるのは、最初に「数える仕組み」を入れていたから

ここまで数字で話せるのは、各AIが仕事をするたびに1行ずつ作業ログを残しているからです。1行に「いつ・どの部署・何をした・成否」が入っている。AI秘書の導入初期に入れておいた土台で、当時から、AIに頼んだ作業は必ずログに残すようにしていました。

そのログを月末に集計すると、「今月、弊社の手から何がどれだけ離れたか」が自動で出てきます。感覚ではなく件数と時間で見える。AIに任せると、何をどこまでやったかがAIの中にしか残らない、という落とし穴があります。だから、動いてもらうのと同じ重さで、記録を残してもらう。導入の効果を語れるかどうかは、この土台を先に置いたかで決まります。


任せて分かった、人間に残る仕事

手を動かす部分は、もう渡せる段階に来ています。では人は何をしているか。頼むこと、選ぶこと、そして全体を通して読むこと。どの仕事を、どの部署に、どんな手順で渡すか。窓口を一つにして裏で振り分ける設計にするか。数える仕組みを最初に入れておくか。こうした「組み立ての判断」は、人間に残ります。

任せた先で人がどう「チェック役」に回るかは、ショート動画を大量に作ったときの経験として別にまとめています。

あわせて読みたい
AIでショート動画を100本自動生成して分かった、人がやるべき「チェック」の設計
AIでショート動画を100本自動生成して分かった、人がやるべき「チェック」の設計

データも人もAIも、つながるから、先がある。AI秘書を「速くする道具」で止めるか、「任せる相手」として組織に据えるか。入れ方ひとつで、空く時間の大きさは変わります。


参考

あわせて読みたい
AI社員が「働いて見える」オフィスを作った ― 可視化で見せるべきは、忙しさではなく「止まっていないか」
AI社員が「働いて見える」オフィスを作った ― 可視化で見せるべきは、忙しさではなく「止まっていないか」
あわせて読みたい
AIでショート動画を100本自動生成して分かった、人がやるべき「チェック」の設計
AIでショート動画を100本自動生成して分かった、人がやるべき「チェック」の設計
あわせて読みたい
「部下にAIを教えて」と頼まれ、あえて断った ― 紙芝居で伝えた、AI導入の“順番”
「部下にAIを教えて」と頼まれ、あえて断った ― 紙芝居で伝えた、AI導入の“順番”
ABOUT ME
石井 亮介(りょうさん)
石井 亮介(りょうさん)
データパレード 代表取締役
㈱データパレードの代表取締役で高田馬場の町中華のChief Data Officerをしています。 BIツールのセールスエンジニア・システムエンジニア・カスタマーサクセス歴15年、大学データサイエンス科 講師をしています。データエンジニア領域とコンサルティングが得意です。
記事URLをコピーしました